熊大共同研究

『自然と人間の気の調和を目指したインテリアデザイン』

RIST(熊本知能システム技術研究会)ヒューマンウェア研究討論会内で、平成14年に「住環境評価」分科会を立ち上げました。熊本大学大学院(工学部)との共同研究という形をとっています。

陰陽説を感性工学的に捉え、実験データをもとに因子分析を行ない数値化することで、陰陽という観念の定量化を目的としています。その結果、これまでの感性表現が普遍的に実証され、陰陽を取り入れた空間デザインがより信頼性の高いものとなります。

人間の感覚と記憶について

美しいデザインには、誰もが心ひかれる。
何万年もの過去の間に蓄積された潜在意識の中に、感覚の記憶の積み重ねがあり、この中には、美しさや心地よさを感じる感覚も含まれている。私たちがデザインする時、無意識に過去の記憶の積み重ねを辿っている故、その結果として、美しいものや形の作品表現になっていくことがある。

例えば、たき火の火を暖かく感じるのは、人類が長い間、たき火をして暮らしてきたあかしである、というのも、同じである。

人間の感覚と記憶
図.人間の感覚と記憶

現代における人間と自然の関係

人類は、感覚の記憶・経験のもとに、自然の気を感じながら、豊かな心を培ってきた。しかし、現代、都会化、社会システムの複雑化が進み、自然の気を感じることも困難な環境になっている。機能性や便利さを追求するあまり、美しさや心地よさを感じる感覚が失われていくかもしれないとすれば、残念である。このような時代だからこそ、自然と気の調和のとれた住環境、ビジネス環境の大切さと必要性を認識したい。

「陰陽」の気

中国で誕生した環境思想の中に、「陰陽」の概念がある。原初に「無極」と呼ばれる抽象的な要素があり、そこから「太極」が生じた。全ての存在の根源である「太極」が動き始めると、「陰」という落ち着いた性格の気と、快活な性格の「陽」という気を生み出す。これらは、森羅万象の状態を表わし、衣食住を含むすべてのものは、「陰」「陽」どちらかの気を持つことになる。しかし、グレースケールのような変化があり、完全な「陰」、完全な「陽」は存在しない。そして、物事の相対的な相を示す概念である。

「陰陽」の心

「陰陽」は心の状態も表わす。静かに物事を考えたりする時は「陰」の気、快活に行動している時は「陽」の気を持つ。つまり、心が内に向かう状態を「陰」、外に向かう状態を「陽」と、理解できる。心身の健康には、その時の心にふさわしい「陰陽」の環境に整えることが大事であり、快適な空間だと感じる。また、それは自然の気を感じる状態であるとも言える。

「陰陽」に関わるもの

自然と人間の気の調和のとれた環境をつくるために、「陰陽」の概念を用いる。空間の構成要素はすべて「陰陽」に関係するが、中でも、材質と照明の光源は影響が大きい。木、畳、布、絨緞などは「陰」、ガラス、金属、石、コンクリート、樹脂などは「陽」である。広い面積ほど影響も大きくなる。

照明の光源の場合は、色温度とほぼ比例して考える。ケルビン数が低いほど「陰」であり、高いほど「陽」である。一日中、蛍光灯の光だけの室内にいると、疲れを感じる時があり、白熱電球のあかりやキャンドルの炎に、ほっとしたりする。無意識に、多すぎる「陽」に「陰」を補い、バランスをとっているのである。

寛ぎたい寝室や浴室には、白熱電球の「陰」のあかり、テキパキこなすオフィスの日常業務や家事室には、「陽」の光の蛍光灯をつけることが多いが、これも、「陰陽」が心に与える影響に則している証左である。

照明(光源)の陰陽
図.照明(光源)の陰陽

おわりに

「陰陽」は、自然の摂理と深く結びつく。特に、太陽の動きにともなうエネルギーの流れを重要視している。朝の「陽」から夕の「陰」へと変化する気の流れを感じながら、「陰陽」をふまえた環境をつくること。その中から、自然の気を感じる豊かな心も育まれてくる。つまり、自然に対して素直に生きることこそ、大事なのである。